Essay
エッセイ




[ポーランドはおいしい] 第6回

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1. ウオツカとソーセージ
2. ピエロギの考察
番外編. ワールドカップに見るポーランド性
3. 料理名の不思議
4. 蜂
5. ビールの味いろいろ
   ポーランドのクリスマス 芝田文乃

クリスマスのことをポーランド語では文字どおり「神の誕生」という言葉で表す。国民の大部分がカトリック教徒なので、クリスマスと復活祭が2大年中行事となっている。

クリスマス・イブには夕方から(とはいえ午後3時頃にはもう薄暗い)家族そろってディナーを食べる。メイン・ディッシュは鯉。同じく中欧のチェコやオーストリアでもクリスマスには鯉を食べる習慣がある。クリスマスが近付くと街角にタンク車が現れ、タンクから生きたままの鯉を網ですくい出して売る。チェコのアニメーション作家シュヴァンクマイエルの映画「オテサーネク」にこうして鯉を売る場面が出てくるのをご覧になった方もいるかもしれない。買った鯉はイブまで家庭の浴槽に入れて生かしておくものらしい。スワヴォーミル・ムロージェクの短編「鯉」(「所長」に所収)を参照のこと。

上段左から、ウシュキ入りバルシチ、ゆでインゲン豆、ケーキ数種、
下段左から、キャベツ入りピエロギ、鯉のフライ、
チーズケーキと芥子の実ロールケーキ
©2001,2004

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2001年に私が招待されたクリスマス・ディナーのメニューは次の通り。ウシュキ入りバルシチ(ペリメニの入ったビートのスープ)、キャベツ入りピエロギ、ゆでインゲン豆、鯉のフライ、ケーキ数種(ポーランド風チーズケーキ、芥子の実のロールケーキ、りんごケーキ他)。飲み物は梨のコンポートとコーヒー、紅茶。

ポーランド人は普段あまり魚を食べないので、食べ慣れぬ魚の小骨をのどに引っかけて医者に駆けこむ人も多いようだ(どこかの国の餅の話を思い出す)。父親が耳鼻咽喉科の医師だったというスタニスワフ・レムの自伝的小説「高い城」には、「うちではクリスマスの晩餐を全部食べられたためしがなかった。いつだってドアのところで激しい呼び鈴の音が鳴り響くと、父はすぐに白衣に着替え、あたかも大きな第三の目のような鏡を額に付けて、医院に消えたものだ。」とある。

さてクリスマス・ツリーの下にはあらかじめ家族各々へのプレゼントを置いておくのだが、子どもたちには見えないよう別の部屋に用意する。プレゼントをくれるのはサンタクロースではなく精霊ということになっている。イブの宵に一番星が見えたら精霊が来たしるしで、子どもたちはツリーのある部屋に跳んでいって自分宛てのプレゼントを探す。

ちなみに12月6日は聖ミコワイの日、つまりサンタクロースのモデルになったという聖人ニコラウスの日で、この日にも子どもたちは家族からプレゼントをもらったり、友だち同士でプレゼント交換をしたりする。クリスマスとは別に聖ニコラウスの日を祝うのはポーランドだけではなく、オランダなども同様らしい。きっと12月に2度もプレゼントを贈るのは大変だと思った昔の人が、元来は別々だった習慣をくっつけて、クリスマスにサンタクロースが来ることにしたのだろう。

イブには、各人が聖餅という白くて薄いウェハースを一枚ずつ手にして、そこにいる全員と1人ずつお祝いの言葉を述べあいながら、互いに相手の持っている聖餅を少し折りとって食べる。例えば自分以外に7人いたら7回これをくり返すわけだ。

敬虔な教徒はこのあと夜中のクリスマス礼拝に赴く。ポーランドでは25日、26日とも国民の祝日。このあと大晦日までは何となく浮かれた感じが続く。

大晦日のパーティーのテーブル
©2001,2004
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大晦日は盛大にホテルやレストランでパーティーをしたり、広場のカウントダウン・イベントに出かけたりする。この日のために女性はドレスを新調し、美容室で目一杯おしゃれな髪型にする。カウントダウンの瞬間は花火があがり、シャンパンで乾杯し、親しい人同士キスをする。それから広場でシャンパンの空瓶をパンパンたたき割る。後の清掃が大変なので、クラクフ市では近年、空瓶は割らずにリサイクルボックスへ、と呼びかけている。リサイクルに協力した人には、市長のメッセージと1グロシュ(約0.3円)がラミネートされたカレンダーカードを記念にくれる。

1月1日は休日だが、2日から通常の仕事が始まる。しかしクリスマスの飾り付けやツリーは6日頃まで残っているから、正月という感じはしない。というか日本人が当たり前のように思っている正月の行事(初詣とか鏡開きとか)が無いだけだ。このあと復活祭までは大した行事もないので、スキージャンプの中継を見たりしながらひたすら春を待つ。
2003.12




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