カタツムリ、カタツムリ、角を出せ おまえにピエロギ用のチーズをあげる ジグムシくんは作文にこう書いた。 「カタツムリとは、その生計を立てるのに角を出すことを用い、その代わりにある量のチーズを受け取り、それでもってピエロギを作る小さな生物である」(スワヴォーミル・ムロージェクの短篇「ジグムシのこと」) ピエロギとはなんぞや? 1.肉またはキャベツを生地に詰めて焼き、バターあるいはソースを添えて出す伝統的なロシア料理。 2.肉、チーズ、または果物を生地に詰めてゆでた料理。 3.[歴史]ナポレオン戦争時代に兵士がかぶった三角形の大きな帽子。 このうちポーランドでは2の意味で使われることが多い。 つまり、ゆで餃子のようなものだ。肉入り餃子なら想像できるけれど、チーズ入り餃子と言われても日本人にはピンとこない。このチーズは黄色い堅いものではなく、白くて柔らかいカテージチーズで、ポーランドでは白チーズ(ビャウィ・セルbialy ser)と呼ばれる。白チーズは、脂肪分が多いもの、普通のもの、少ないものがあり、料理や好みによって使い分ける。 さて、ムロージェクの短篇「苦行者」に登場するインド人の好物は「ルスキェ・ピエロギとビール」とある。ルスキェ・ピエロギとは文字通りには「ロシアのピエロギ」の意味だが、いわゆるピロシキのことではなく、マッシュポテトと白チーズを詰めたピエロギを指す。これは日本人にとってのカレーライスかラーメンに当たるくらい、ポーランド人にとっては庶民的な人気料理だ。食堂のメニューにはたいてい載っているし、ゆでればOKの冷凍ピエロギも売っている。尚、日常的にはピエロギ・ルスキェという語順の方をよく耳にする。 材料(4人分) 皮:小麦粉 350g 卵(小)1個 ぬるま湯 130ml 塩少々 具:じゃがいも 600g 白チーズ(脂肪分の多いもの)250g 玉ねぎ(中)1個 バター 大さじ1 黒胡椒 小さじ1/2 塩少々 ピエロギにかけるもの: 炒めた脂身入りラード 大さじ2 あるいは、バター 大さじ2 1.最初に具を作ります。 じゃがいもは皮をむいて洗い、塩を入れた湯でゆでる。冷めたらフォークでつぶす。玉ねぎはみじん切りにし、明るい黄金色になるまでバター大さじ1でよく炒める。チーズはほぐしておく。ボウルにじゃがいも、チーズ、玉ねぎ(炒めたバターもいっしょに)を入れ、塩胡椒して混ぜる。じゃがいもとチーズの粒が多少残るようにする。 2.次に皮を作ります。 大きなボウルに小麦粉を入れ、卵を割り入れ、塩とぬるま湯を加えて生地をこねる。2つに分け、打ち粉をしながら麺棒で薄く伸ばす。型かコップで直径7-8cmの円形に抜く。3.丸い皮の中央にスプーンで具を置き、2つ折りにして縁をしっかりくっつける。具が縁に付いているとゆでている間にはがれてしまうので、縁に残らないよう気を付ける。 4.鍋に十分な量の湯を沸かし、塩を入れる。沸騰しているところにピエロギを入れて軽くかき混ぜ、浮いてきたらさらに2-3分ゆでる。穴じゃくしで取り出す。 5.熱いうちにバターか脂身を溶かしたものをかけて出す。サワークリームを添えてもよい。冷めたピエロギは、フライパンにバターかラードを溶かして焼いてもおいしい。 キャベツを具にする場合は、まず6−8等分に縦割りしたキャベツをゆでて堅く絞り、みじん切り、またはミキサーにかけて、炒めた玉ねぎと合わせる。キャベツ入りピエロギはクリスマスイブのディナーにも登場する。キノコもゆでてからみじん切りにして使う。 果物入りピエロギは、熱いうちに溶かしバターをかけ、砂糖をふり、生クリームを添えて出す。甘いのだが、おやつとしてではなく、昼食や夕食に食べることもある。 ところで、冒頭の言葉遊び唄(角rogiとピエロギpierogiが脚韻を踏んでいる)にあるように、ポーランドのカタツムリはなぜ角を出す代わりにチーズ入りピエロギを作ることになったのか、これについては今後の詳細な研究が待たれるところである。 註: 1.「ジグムシのこと」は西成彦訳でスワヴォーミル・ムロージェック「象」(国書刊行会1991)所収。本稿の引用文は筆者訳。 2.「苦行者」は拙訳のスワヴォーミル・ムロージェク「鰐の涙」(未知谷 2002)所収。 2002.6 |