Essay
エッセイ




[ポーランドはおいしい] 第2回

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1. ウオツカとソーセージ
2. ピエロギの考察
番外編. ワールドカップに見るポーランド性
3. 料理名の不思議
4. 蜂
5. ビールの味いろいろ
6. ポーランドのクリスマス
7. 「ビゴス」と「おじや」
8. 脂っこい木曜日にはポンチキ
9. 桜咲く国
10. ポーランド人民共和国における外貨両替とその様々な側面
11. 綿毛降る
12. 鳴く虫
13. 瓶詰めの魔法
14. あこがれの漢字
15. ホウレンソウ
16. トンカツ東西比べ
   ピエロギの考察 芝田文乃

カタツムリ、カタツムリ、角を出せ
おまえにピエロギ用のチーズをあげる

 ジグムシくんは作文にこう書いた。

「カタツムリとは、その生計を立てるのに角を出すことを用い、その代わりにある量のチーズを受け取り、それでもってピエロギを作る小さな生物である」(スワヴォーミル・ムロージェクの短篇「ジグムシのこと」)

 ピエロギとはなんぞや?

クラクフのカタツムリ
©2000,2006




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 ピエロギpierogiはピエルクpierogの複数形である。pierogの指小形はピエロジェクpierozek、その複数形はピエロシキpierozkiとなり、日本でおなじみのロシア料理ピロシキと同源の語である。辞書でpierog を引くと次の3つの意味がある。

1.肉またはキャベツを生地に詰めて焼き、バターあるいはソースを添えて出す伝統的なロシア料理。
2.肉、チーズ、または果物を生地に詰めてゆでた料理。
3.[歴史]ナポレオン戦争時代に兵士がかぶった三角形の大きな帽子。

 このうちポーランドでは2の意味で使われることが多い。

 つまり、ゆで餃子のようなものだ。肉入り餃子なら想像できるけれど、チーズ入り餃子と言われても日本人にはピンとこない。このチーズは黄色い堅いものではなく、白くて柔らかいカテージチーズで、ポーランドでは白チーズ(ビャウィ・セルbialy ser)と呼ばれる。白チーズは、脂肪分が多いもの、普通のもの、少ないものがあり、料理や好みによって使い分ける。

 さて、ムロージェクの短篇「苦行者」に登場するインド人の好物は「ルスキェ・ピエロギとビール」とある。ルスキェ・ピエロギとは文字通りには「ロシアのピエロギ」の意味だが、いわゆるピロシキのことではなく、マッシュポテトと白チーズを詰めたピエロギを指す。これは日本人にとってのカレーライスかラーメンに当たるくらい、ポーランド人にとっては庶民的な人気料理だ。食堂のメニューにはたいてい載っているし、ゆでればOKの冷凍ピエロギも売っている。尚、日常的にはピエロギ・ルスキェという語順の方をよく耳にする。

Bがバルで注文するのはたいていピエロギ・ルスキェ
©1998,2006


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ピエロギ・ルスキェの作り方
  材料(4人分)
皮:小麦粉 350g
  卵(小)1個
  ぬるま湯 130ml
  塩少々
具:じゃがいも 600g
  白チーズ(脂肪分の多いもの)250g
  玉ねぎ(中)1個
  バター 大さじ1
  黒胡椒 小さじ1/2
  塩少々
ピエロギにかけるもの:
  炒めた脂身入りラード 大さじ2
  あるいは、バター 大さじ2

1.最初に具を作ります。
 じゃがいもは皮をむいて洗い、塩を入れた湯でゆでる。冷めたらフォークでつぶす。玉ねぎはみじん切りにし、明るい黄金色になるまでバター大さじ1でよく炒める。チーズはほぐしておく。ボウルにじゃがいも、チーズ、玉ねぎ(炒めたバターもいっしょに)を入れ、塩胡椒して混ぜる。じゃがいもとチーズの粒が多少残るようにする。
2.次に皮を作ります。
 大きなボウルに小麦粉を入れ、卵を割り入れ、塩とぬるま湯を加えて生地をこねる。2つに分け、打ち粉をしながら麺棒で薄く伸ばす。型かコップで直径7-8cmの円形に抜く。3.丸い皮の中央にスプーンで具を置き、2つ折りにして縁をしっかりくっつける。具が縁に付いているとゆでている間にはがれてしまうので、縁に残らないよう気を付ける。
4.鍋に十分な量の湯を沸かし、塩を入れる。沸騰しているところにピエロギを入れて軽くかき混ぜ、浮いてきたらさらに2-3分ゆでる。穴じゃくしで取り出す。
5.熱いうちにバターか脂身を溶かしたものをかけて出す。サワークリームを添えてもよい。冷めたピエロギは、フライパンにバターかラードを溶かして焼いてもおいしい。

クリスマス・イヴのディナーに出たキャベツ入りピエロギ
©2001,2006


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   ピエロギは餃子に比べると卵が入るぶん多少皮が厚く、ぷりぷりした歯ごたえがある。ルスキェ以外にポピュラーなピエロギは、キャベツ入り、キャベツとキノコ入り、挽き肉入り、イチゴ入り、コケモモ入りなどである。挽き肉入りが一番人気になっていない理由は、民主化以前の飲食店でしばしば得体の知れない屑肉や古い肉などを挽いて作り、骨や内臓が混じっていたりしたため、ポーランド人が挽き肉というものをいまだにあまり信用していないからだろう。

 キャベツを具にする場合は、まず6−8等分に縦割りしたキャベツをゆでて堅く絞り、みじん切り、またはミキサーにかけて、炒めた玉ねぎと合わせる。キャベツ入りピエロギはクリスマスイブのディナーにも登場する。キノコもゆでてからみじん切りにして使う。

 果物入りピエロギは、熱いうちに溶かしバターをかけ、砂糖をふり、生クリームを添えて出す。甘いのだが、おやつとしてではなく、昼食や夕食に食べることもある。

 ところで、冒頭の言葉遊び唄(角rogiとピエロギpierogiが脚韻を踏んでいる)にあるように、ポーランドのカタツムリはなぜ角を出す代わりにチーズ入りピエロギを作ることになったのか、これについては今後の詳細な研究が待たれるところである。

註:
1.「ジグムシのこと」は西成彦訳でスワヴォーミル・ムロージェック「象」(国書刊行会1991)所収。本稿の引用文は筆者訳。
2.「苦行者」は拙訳のスワヴォーミル・ムロージェク「鰐の涙」(未知谷 2002)所収。
 
2002.6


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