ムロージェクの短篇「請願書」で、「私」が給仕人に請願するのは、ロースカツレツ数量一個である。そして可能であればロースカツレツのわきに、できれば出来たての煮込みキャベツを添えてほしい、それとは別にジャガイモもお願いしたいと付け加える。 ロースカツレツ(kotlet schabowy コトレト・スハボーヴィ)はポーランド料理のなかでもポピュラーなメニューだ。しかし日本のトンカツとは食べ方がちょっと違う。 ご飯とみそ汁がつかないのはもちろんだが、パンではなく、ゆでたジャガイモを添える。ポーランドでは肉料理にゆでジャガイモかフライドポテトを添えるのが普通である。 付け合わせのキャベツは生の千切りではなく、たいてい煮込んである。ポーランドではキャベツを生で食べることはほとんどない。煮物(ビゴスやロールキャベツなど)や塩漬け発酵したもの(ザワークラウト)が主流だ。この煮込みキャベツは生のキャベツを煮る場合もあれば、塩漬けキャベツ(kiszona kapusta キショナ・カプースタ)を煮て作ることもある。 ポーランドには日本と同じキャベツのほかに、イタリア・キャベツ(kapusta wloska カプースタ・ヴウォスカ)という葉のちぢれたやわらかいキャベツがある。また、白菜のことをポーランド語ではkapusta pekinska カプースタ・ペキンスカ=北京のキャベツという。日本よりは小ぶりの白菜が最近出回るようになった。日本人は白菜を鍋物や漬け物にするが、ポーランド人は生のまま刻んで甘酢ドレッシングで和えてサラダにすることが多い。ポーランドと日本では、キャベツと白菜の食べ方がどうも逆のようだ。 さて、ポーランド人のBが浅草の洋食屋さんでトンカツを目にしていちばん驚いたのは、ナイフとフォークなしで箸だけでどうやって食べるのかということだった。まるのままかぶりつけとでもいうのかと、おそるおそる箸で持ち上げてみると、トンカツはあらかじめ約2センチ幅に包丁で切ってあるのだった。この、あらかじめ切ってあるということに、Bはいたく感心していた。言われてみればヨーロッパでは大きな肉料理を食卓で切り分けることはあっても、厨房で切っておいてから出すことはあまりないのかもしれない。 註: 1.スワヴォーミル・ムロージェク「請願書」は「所長」芝田=訳(未知谷 2001)所収 2006.1.9 |