Essay
エッセイ




[ポーランドはおいしい] 第18回

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1. ウオツカとソーセージ
2. ピエロギの考察
番外編. ワールドカップに見るポーランド性
3. 料理名の不思議
4. 蜂
5. ビールの味いろいろ
6. ポーランドのクリスマス
7. 「ビゴス」と「おじや」
8. 脂っこい木曜日にはポンチキ
9. 桜咲く国
10. ポーランド人民共和国における外貨両替とその様々な側面
11. 綿毛降る
12. 鳴く虫
13. 瓶詰めの魔法
14. あこがれの漢字
15. ホウレンソウ
16. トンカツ東西比べ
17. クリスマスを過ぎて思うこと
   シャルロトカ レムさんちへの道 その2 芝田文乃

 プワシュフからボレク・ファウェンツキまでは23番の路面電車なら直で行ける。でもその前に手みやげを買いたかったので24番でいったん旧市街に出る。Bと私がクラクフでいちばんおいしいと思っているストラルスカ通りのケーキ屋さんでシャルロトカを一切れ(500gほど)買う。

ストラルスカ通りのケーキ屋さん
©2002,2006



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 シャルロトカというのはリンゴのケーキ。アップルパイの上下のパイの部分がクッキーのような生地になっているもので、オーブンの天板いっぱいに四角く焼いてある。私が初めてポーランドに来たとき、オーストリア人の友だちが、ワルシャワ旧市街の「pod gwiazdka 星の下」というカフェで注文し、「これおいしいわよ」と教えてくれた。

 その後あちこちのケーキ屋やカフェで試してみてわかったが、シャルロトカはセルニク(ポーランド風チーズケーキ)ほど当たりはずれがなく、たいていはおいしくいただけるので安心して注文できる。





ルィネク(中央広場)のカフェのシャルロトカ
©2002,2006


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 それからルィネクの本屋でサインしてもらうための本を買い、路上に店を広げている花屋で黄色いバラの花束を買うと、フィルハーモニー前から8番の路面電車に乗り込み、終点ボレク・ファウェンツキへ。ボレクからは歩いて行こうかと思っていたが、約束の時間に間に合わなさそうなのでタクシーに乗る。

 シャルロトカと花束はスタニスワフ・レム氏への手みやげ。自伝的小説「高い城」にも書いているように、レム氏は小さい頃から甘い物に目がなかった。2003年8月ガゼタ・ヴィボルチャ紙に掲載された詩人エヴァ・リプスカとの対談でも、時事問題の合間に、甥のミハウがブダペシュトのマジパン博物館で買ってきてくれたマジパン製果物がたいへんおいしかっただの、ウィーンのオペラ座向かいの角のケーキ屋のプリンツ・オイゲン・トルテがすばらしくおいしかっただの、話題が甘い方へ甘い方へと転がっていたから、いまも大の甘党であることは明らかだ。

セナツカ通りのカフェのシャルロトカ
©2005,2006

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 約束の16時ちょっと前に到着。2階の窓にレム氏が見える。奥さんらしい人が怪訝な顔で門を開けてくれる。茶色の小さなダックスフントが3匹もつれ合うように飛び出して私を迎える。私は名をなのり、レム氏と会う約束がある旨を伝える。犬は何匹いるのかと訊くと4匹という答え。玄関にレム氏自身が出てきて迎えてくれる。バラの花束を奥さんに渡す。犬たちが足元にまとわりついてくる。レム氏が犬を追っぱらいなさいと言うと、奥さんが右の部屋に犬たちを追い込み、背後でドアを閉めた。

 今日あなたが来ることを忘れていた、今日はそう、月曜日だったね、とレム氏は言い、玄関の先の小さいサロンのようなところを抜け、上がって上がって、と階段を上るように私をせかす。上がると中2階のようになっていて、そこからまた数段登ると左がレム氏の書斎、廊下を挟んで右が秘書室。

 レム氏が私のために安楽椅子を自分の机のそばまでよっこらしょと寄せてくれる。私が渡したシャルロトカの包みは机の上に無造作に置かれたまま、私が帰るまでだれも手を触れなかった。

2006.3



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