プワシュフからボレク・ファウェンツキまでは23番の路面電車なら直で行ける。でもその前に手みやげを買いたかったので24番でいったん旧市街に出る。Bと私がクラクフでいちばんおいしいと思っているストラルスカ通りのケーキ屋さんでシャルロトカを一切れ(500gほど)買う。 その後あちこちのケーキ屋やカフェで試してみてわかったが、シャルロトカはセルニク(ポーランド風チーズケーキ)ほど当たりはずれがなく、たいていはおいしくいただけるので安心して注文できる。 シャルロトカと花束はスタニスワフ・レム氏への手みやげ。自伝的小説「高い城」にも書いているように、レム氏は小さい頃から甘い物に目がなかった。2003年8月ガゼタ・ヴィボルチャ紙に掲載された詩人エヴァ・リプスカとの対談でも、時事問題の合間に、甥のミハウがブダペシュトのマジパン博物館で買ってきてくれたマジパン製果物がたいへんおいしかっただの、ウィーンのオペラ座向かいの角のケーキ屋のプリンツ・オイゲン・トルテがすばらしくおいしかっただの、話題が甘い方へ甘い方へと転がっていたから、いまも大の甘党であることは明らかだ。 今日あなたが来ることを忘れていた、今日はそう、月曜日だったね、とレム氏は言い、玄関の先の小さいサロンのようなところを抜け、上がって上がって、と階段を上るように私をせかす。上がると中2階のようになっていて、そこからまた数段登ると左がレム氏の書斎、廊下を挟んで右が秘書室。 レム氏が私のために安楽椅子を自分の机のそばまでよっこらしょと寄せてくれる。私が渡したシャルロトカの包みは机の上に無造作に置かれたまま、私が帰るまでだれも手を触れなかった。 2006.3 |